火の言葉だけが残った① 芥川龍之介、名作「蜃気楼」/吉増剛造【連載随筆】
※本記事では、機関紙「神奈川近代文学館」164号(2024年4月1日発行)の寄稿を期間限定で公開しています。〈連載終了まで〉
吉増剛造・詩人
ゴッホなら、大きな渦巻だろうが、芥川龍之介の心の芯の糸は、ほとんど見えない、幽かな架空の稲妻だ――。それをたとえばわたくしは龍之介が感嘆する、師夏目漱石のここから学んだ。
「風が高い建物に当つて、思ふ如く真直に抜けられないで、急に稲妻に折れて、……」(夏目漱石「暖かい夢」、芥川龍之介「眼に見るやうな文章」全集第三巻百五十四頁)